頭のなかみをそのまま筆に

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病気とは何か

病気とは、一言でいえば、ホメオステイシス(恒常性の維持)の破綻のことである。人は常に形態や機能の体の環境を快適な一定の状態に維持しており、これを恒常性の維持という。それが何らかの原因で異常な環境になったり正常な範囲が狭まったりして破綻すると、病気になっている状態になる。


 ではより客観的具体的に「病気とは何か」ということを、今回は病理学の観点から考えてみようと思う。病理学とは病気の原因・経過・結果について、おもとして形態学を基本に考察する手法・学問体系である。診断病理学や実験病理学、分子病理学、計量分離額等に細分化される。ゆえにある状態と、病理学により解明された原因・経過・結果の3点が一致すれば、その状態は病気であるといえるのである。つまり、病気の十分条件の3点を説明することにより、病気を説明できる。では、この病気の十分条件を考えて行こう。


 まず一つ目、病気の原因について。病因は内的要因と外的要因に大別される。内因は、種、品種、遺伝、性、年齢、組織臓器などによる。外因は栄養によるものと環境によるものに分けられ、環境によるものはさらに物理的要因(放射線、紫外線、熱など)と化学的要因(薬品や農薬など)と生物学的要因(ウイルス、細菌、寄生虫など)に分別される。これらが原因で病気が生じるのである。


 二つ目は、病気の経過について。経過は特に診断病理学により考察される。診断病理学とは、解剖や生検などからなる病理観察による手法である。病理観察は以下のような流れで行われる。まずは肉眼診断による剖検。次は顕微鏡による診断のための組織切片作製。これは対象をホルマリン等で固定したのち、脱水・透徹をして包理をする。そしてそれを薄切りして染色等の処理をして封入することでできる。そして次は光学顕微鏡を用いて観察し組織診断をする。さらに必要であれば免疫組織化学などを用いたり電子顕微鏡を使ったりして特殊観察をする。免疫組織化学とは細胞内や組織内でのタンパク質の所在を解析する手法である。電子顕微鏡は光の代わりに電子をあてて拡大する顕微鏡であり、分解能が高く、細胞内の構造やウイルス粒子を見ることができる。これらの病理観察で組織の一時の状態がわかり、それらをつなげて分析することにより病気に経過がわかる。


 最後は、病気の結果について。これは特に実験病理学により解析される。実験病理学は、まず化学物質や微生物が含まれた食品を実験動物に投与し、体重の変化や症状や血液検査を記録し、安楽死したのちに剖検をして材料を採取し、顕微鏡による組織検査や染色による形態検査をして、遺伝子やタンパク質の発現検査をする、という流れになる。これにより病気の結果である体の反応がわかる。体の反応には大きく5つある(退行性変化、進行性変化、循環障害、炎症、腫瘍)。ここでは炎症と腫瘍について少し詳しく説明する。


 炎症とは、傷害刺激に対する生体の防御反応であり、刺激原因を除去し、病変を限局化、これを補填、再生する一連の過程のことである。炎症の症候は発赤や発熱、腫脹など多様であり、変性性炎や滲出性炎など様々な種類がある。
次に腫瘍とは、無秩序な自律的増殖をする生体細胞のことであり、良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられる。良性腫瘍は包皮で膨張性の発育をし、発育は遅く異型は少ない。再発や転移はなく、全身傷害は軽度である。一方悪性腫瘍は「がん」とも呼ばれ、浸潤性の発育をし、発育速度は速く壊死や核分裂像が多い。異型や再発、血管やリンパ管内での転移も多くあり、全身傷害は重度である。日本の死因で最も多いのはこのがんである。外胚葉からできる神経からは神経腫瘍、内胚葉からできる消化器や呼吸器からは上皮性腫瘍(悪性は癌腫)、中胚葉からできる泌尿器や運動器からは非上皮性腫瘍(悪性は肉腫)になる。腫瘍は遺伝により起こるため、がんは遺伝子病である。腫瘍が起こる原因は3つある。一つは細胞分裂を促す遺伝子である癌遺伝子の変異。もう一つは癌抑制遺伝子の変異。あと一つはDNA損傷認識・修復遺伝子の故障である。


 以上により病理学により病気の原因・経過・結果を説明した。ゆえに「病気とは何か」に対する答えは、「上記の原因により、上記の状態を経過し、上記の体の反応の結果を示す一連の過程」というものになる。